2015年11月14日土曜日

回帰係数0とパラメータ0は検定が違う:黒木氏の非線形問題


偶然,ネット上で,以下のような非線形回帰の係数の統計学的検定に関する質問を見つけた。

非線形回帰の信頼性評価について(黒木)

その質問の中で,特に,気になったスレッドが,No.01788 2006/12/06(Wed) 18:09。統計解析ソフト R を使った非線形回帰分析の方法が回答された後,質問者・黒木氏が,仮説を"回帰係数(パラメータ)の値が0であるかどうか"としか置けないところが難点です,述べたことである。

黒木氏は,回帰係数(regression coefficient)とパラメータ(parameter)を同一視してしまっている,あるいは,混同している。しかも,それゆえ,値が0であるかどうかとしか置けない,と誤解してしまっている。両者は,もちろん異なるものであり,回帰分析で任意の実数の回帰係数の検定可能である

実は,統計ソフト R の非線形回帰分析などでは,厳密に言うと,係数の検定を行なっているのではなく,パラメータの検定を行なっているのである。

例えば, ab を定数として,以下のような直線を考える。

回帰直線

このとき, a は傾きを表す係数であり,かつ,パラメータである。統計ソフトでは,しばしば
帰無仮説 H0: a = 0
に対して検定が行なわれる。

しかし,ここで,p を定数として,例えば,

パラメータの一次変換

変換された回帰直線

としてみよう。

すると,パラメータは p であるが,回帰係数は p+1 である。前述のとおり, R の非線形回帰分析などでは,パラメータの検定を行なうので,
帰無仮説 H0: p = 0
に対して検定が行なわれる。

つまり,これは,回帰係数に対して
帰無仮説 H0: a = 1
という検定が行なわれることなのである。

実際に,以下のような xy データを R で検定してみよう。

x<- c(1, 2, 3, 4, 5)
y<- c(0, 3, 2, 6, 5)

line1<- lm(y~x)
(reg1<- summary(line1))  # 回帰分析

plot(x, y)
abline(line1, col="red")

まず,ここまでで,データの散布図(Scatter Diagram)と回帰直線が描ける。

分析データの散布図と回帰直線

回帰係数の検定理論は,私のホームページ
その中の6. 回帰の検定に書かれている。

例えば,傾きを a,傾きの標準誤差を Sa,としたとき,傾きが2となるか否か,つまり,
帰無仮説 H0: a = 2
に対して検定する場合,検定統計量を t とすると,以下のように表される。

回帰係数2に対しての検定統計量 t

もちろん
帰無仮説 H0: a = 0
に対して検定する場合は,

回帰係数0に対しての検定統計量 t

すなわち

回帰係数0に対しての検定統計量 t

これが,黒木氏が,仮説を"回帰係数(パラメータ)の値が0であるかどうかとしか置けないところが難点として参照したウェブページ偏回帰係数の検定が表す式である。

つまり,回帰係数の値が0であるかどうかが検定できれば,一般性を失うことなく任意の係数について検定できるのである。これは, t 統計量が母平均の差の検定に用いられるように,差の検定に使われる統計量だということからも推察される。このような理論的な部分を,少なくとも,このスレッドを書いた時点では,黒木氏は理解していなかったようである。

話を元に戻して,この式を使い,
帰無仮説 H0: a = 2
に対して, R で検定してみる。傾きとその標準誤差は,回帰分析の結果で,要素 coefficients の2行1列,2行2列のデータとして格納されているので,それを取り出して使う。

a<- reg1$coefficients[2, 1]  # 傾き
sa<- reg1$coefficients[2, 2]  # 傾きの標準誤差

df<- length(x)-2  # 自由度
(tval<- abs(a-2)/sa)  # t 値
pt(tval, df, lower=F)*2  # p 値

結果は以下の通り。

t = 1.578457
p = 0.212573


しかし,これは,前述のとおり,

変換された回帰直線

としてパラメータを検定すれば簡単である。

そのときは, nls 関数を用いる。これまた,非線形回帰のときに使われる関数だと,安易に解説している人もいるが,それだけではないのである。以下が,それを用いた検定のスクリプト。

line2<- nls(y~ (p+2)*x + b, start=c(p=1 ,b=1))
(reg2<- summary(line2))  # 回帰分析

reg2$coefficients[1, 3] # t 値
reg2$coefficients[1, 4] # p 値

実に簡単である。結果は以下の通り。

t = 1.578457
p = 0.212573


この結果は,当然だが,前述のように定義に従って計算した結果と同じである。

ここでは直線回帰(linear regression)を取り上げたが, nls 関数を使っているので,もちろん,非線形回帰(non-linear regression)において,係数が0でない場合の検定も出来る。

余談であるが,統計学における母数とは,パラメータ(parameter)のことであり,母平均とか母分散と言う時の,である。その意味で, R は係数の検定ではなく,母数の検定を行なっているのである。

統計学における母数の意味を知らない人(大学教員もか?)がかなり多い。朝日新聞の統計記事でも間違えて使われている。私の Yahoo!知恵ノート参照。

これに関連して,以下のブログも面白かった。

私の研究室トップページに,その他の統計学の話題のリスト。


2015年10月24日土曜日

円の最小2乗近似と描画にRのoptimxとdraw.circle関数


ウェブ上を見ていて,意外に解説が少ないのが,円の最小2乗近似の方法であった。

以下のページには,Excelを使った方法が述べられている。
しかし,これらは,中心から各点への距離の2乗円の半径の2乗の差を最小化しようとしているため,実態に合わない円の近似となってしまう。

ここでは,実際に 8 個の点
(3, 0), (5, 0), (0, 3), (0, 5), (-3, 0), (-5, 0), (0, -3), (0, -5)
に対する円の近似を統計解析ソフト R を使い,まず直感的に考えてみよう。

x<- c(3, 5, 0, 0, -3, -5, 0, 0)
y<- c(0, 0, 3, 5, 0, 0, -3, -5)
plot(x, y, asp=1, col="magenta")

あとで近似円を描きやすいように,アスペクト比(asp)を 1 にしてある。

統計解析ソフト R による円近似用のデータプロット

この散布図ならば,中心 (0, 0),半径 4 の円が描けると推定される。

ここで重要なことは,通常最小二乗法(Ordinary Least Square: OLS)は,y方向の値しか最小化しないため,円の近似には妥当でない,ということである。この通常最小2乗法の注意点については,実は,大学の研究者でも知らない人がいるので注意が必要である。この点に関しては,私のウェブ解説も参照。
ところで,R を用いて円を描くスクリプトも,これまた,良い解説が少ない。

例えば,次のページ
そこには,円を描くような関数が用意されていてもよさそうなものですが、どうもないみたいと書かれていて,他のウェブページにも同様な解説があるが,実際には,簡単に円を描くパッケージと関数が存在する。

例えば,パッケージ plotrix の中の draw.circle 関数や,パッケージ shape の中の plotcircle 関数を使えば,円が簡単に描画できる。

ここでは,draw.circle 関数を使う。 plot 関数から,再度書くと,以下のようになる。

plot(x, y, asp=1, col="magenta")
library(plotrix)
draw.circle(0, 0, 4) # 中心 (0, 0),半径 4 の円

実に簡単,1行で円を描くスクリプトが書ける。

統計解析ソフト R による円の描画

その上で,中心から各点までの距離と半径の差を最小2乗化するために,パッケージ optimx の中の optimx 関数を利用する。この関数の利点は,オプション
all.methods=T
を指定すると,多くの近似法の結果を返してくれる点である。それを適合度が高い(残差が小さい)順に並べれば良い。 初期値
中心 (1, 1),半径 5
として,以下がそのスクリプト。

f<- function(arg) {
  a<- arg[1]
  b<- arg[2]
  r<- arg[3]
  t<- (sqrt((x-a)^2 + (y-b)^2)-r)^2
  return(sum(t))
}

library(optimx)

res<- optimx(
  c(1, 1, 5), # 初期値,中心 (1, 1),半径 5
  f, control=list(all.methods=T) # 全ての近似法
)

summary(res, order=value) # 残差が小さい順に示す
必要部分だけ,結果を図示する。

統計解析ソフト R による円の最小2乗近似結果

L-BFGS-B法がベストな方法で,中心 (0, 0),半径 4 の円で近似されるだろうと推定される。 初期値
中心 (0, 0),半径 4
として,再度計算させる。

f<- function(arg) {
  a<- arg[1]
  b<- arg[2]
  r<- arg[3]
  t<- (sqrt((x-a)^2 + (y-b)^2)-r)^2
  return(sum(t))
}

res<- optimx(
  c(0, 0, 4), # 初期値,中心 (0, 0),半径 4
  f, control=list(all.methods=T) # 全ての近似法
)

summary(res, order=value) # 残差が小さい順に示す

統計解析ソフト R による円の最小2乗近似結果

今度は,すっきりした結果が出た。

その他の参考ページ

2015年10月18日日曜日

辰野のホタル 町おこしと保護の課題 - 滋賀県守山市・環境学習会


10月10日に,滋賀県・守山市ほたるの森資料館で開催された2015年度第1回環境学習会に講師として招かれ講演してきた。

タイトルは
ほたるの町 辰野(長野県)でのほたる育成の取組み -- ほたるによる町おこしと生態系保護の課題 --
である。

滋賀県守山市ほたるの森資料館で,辰野のホタルによる町おこしと保護の学習会が開催された。

当日は,パワーポイントで解説したが,ここでは,上記のタイトルをクリックすればPDFで読める。ただし,ファイルを圧縮したので,やや画像が粗い。

私の講演に先立って,館長の竹内辰朗さんから,辰野のホタルと守山の関係,および,私の紹介の話があった。

ほたるの森資料館館長・竹内辰朗氏が,ほたるの町 辰野と守山の関係を紹介した。

続いて,私の講演では,最初に,文化昆虫学者・高田兼太が,日本人が異常なほどホタル好きであることを明らかにした論文の紹介から始めた。

Takada, K. (2010)
Popularity of different coleopteran groups assessed by Google search volume in Japanese culture-extraordinary attention of the Japanese to “Hotaru” (lampyrids) and “Kabuto-mushi” (dinastines) (Cultural entomology).
Elytra, 38: 299-306.

Takada (2010) の研究は,日本人が異常なまでにホタルが好きであることを明らかにした。

日本では,なぜホタルが盛んに保護されるのか,そして,なぜその移入問題が起きるのか,その理由は,高田の研究成果を見れば明らかであるし,この研究に触れることなくホタルの保護や移入の問題を語ることはできない。

守山市から移入したゲンジボタルの影響で,辰野町松尾峡の在来ゲンジボタルが絶滅してしまったこと,その移入ゲンジボタルを増殖させ県外へ移出を行なっていることなどを解説すると,講演後に,出席者から興味と驚きを持った多くの質問が投げかけられた。

辰野町が松尾峡において,守山市の業者から購入し移入したゲンジボタルを観光用に養殖していることや,辰野町が増やしたホタルを県外に移出していることに関しては,以下のウェブページも参照してほしい。


また,天竜川上流では,かつては全体でホタルの乱舞が見られたこと,また,天竜本流では生息できなくなったホタルも,それに沿う用水路では,松尾峡より上流地域にも生息していることなど紹介した。これらのことは,以外と知られていない。

ホタルが見られなくなったというが,実は,松尾峡のようなホタルの「観光名所」が宣伝されるようになったために,その他の小規模生息地が見逃されている現状も指摘した。これは,日没後,夕涼みに出歩く習慣が少なくなったことも影響している。

「観光名所」の大規模ホタル集団が有名になり,その保護が声高に叫ばれるのとは裏腹に,身近な小規模ホタル集団が見逃され絶滅の危機に瀕するという皮肉で逆説的な事態も起きつつある。生物多様性保全 (Biodiversity conservation) の観点からすれば,むしろ,身近な小規模ホタル集団を見守っていくことのほうが大事だとも言えるのである。

講演では,ゲンジボタルの明滅周期の3型とフォッサマグナや糸魚川-静岡構造線といった地質構造との関連にも触れた。この点にも,非常に関心が持たれた。以前は,糸魚川-静岡構造線を境界にして西日本2秒型と東日本4秒型に分かれると考えられていたが,現在では,私の研究でフォッサマグナ地域には3秒型(中間型)が広く分布することが分かってきた。それに関しては,以下のウェブページも参照してほしい。


ほたるの森資料館の位置を示す。琵琶湖の南岸近くに位置する。



ほたるの森資料館のパンフレット表紙も示す。

滋賀県・守山市ほたるの森資料館パンフレット表紙。

パンフレット表紙中央付近に遠景で見られるのが,ほたるの森資料館である。

滋賀県・守山市ほたるの森資料館の建物の遠景を示す。

表紙中央のマスコットキャラクターは,「もぴか」と呼ばれる。

滋賀県・守山市ほたるマスコットキャラクター「もぴか」である。

ほたるの森資料館ホームページから,ページフレーム(左側)下の「もぴかのお部屋」を辿ると,もぴかに関する情報が得られる。

日本のホタルの保護・飼育・調査研究の先駆者であり,全国ほたる研究会初代会長を務めた南喜市郎は守山市出身である。第1回全国ホタル研究会大会は,守山市で開催された。南喜市郎の業績は,この資料館に展示されている。

さらに,守山市は,第33回全国ホタル研究会大会が開催された場所でもある。

下の写真は,その時に購入した大会記念ホタルコップである。

第33回全国ホタル研究会大会(滋賀県守山市)の記念ホタルコップ

こういう記念コップは,その後の大会では,ほとんど販売されなくなった。


2015年8月30日日曜日

二重積分を R と Maxima で解く

二重積分の積分区間が定数でなく,変数の場合,統計解析ソフトRで数値解を求めるには,どうすれば良いか?

最近,Rで重積分というウェブページを見て,このような問題の解説が,ほとんど無いことに気づいた。そのページに書かれていたのは,以下の式である。


二重積分をRとMaximaで解く。






二重積分と言っても驚くことはなく,この場合,通常の単積分を2回繰り返せば良い。

まず, Maxima のプログラム。

f(y):= exp(y^2);
g(x):=integrate(f(y), y, x, 2);
integrate(g(x), x, 0, 2);
float(%);


結果は,以下のとおり。

二重積分を Maxima で解く

26.79907501657212

解析的に解いた結果と数値積分の結果を返してくれる。なお,この数式は, Maxima の出力オプションで,テキスト,画像, LaTeX などある中で, LaTeX を用いて,それを Google chart tools を媒介にして出力したものである。

次に, R による数値解の求め方。

g<- function(x){
  f<- function(y){
  exp(y^2)
  }
  integrate(f, x, 2)$value
}
integrate(Vectorize(g), 0, 2)

注意する点は,二回目の積分,つまり,関数 g の積分で, Vectorize 関数を使い,関数をベクトル化することである。

結果は,
26.79908 with absolute error < 1.3e-12

詳細には検討していないが,実質的に Maxima と同じになる。

参照サイト

2015年7月8日水曜日

Maxima も Welch 検定,内田論文を見て思ったこと


まずは,誤解されないように述べておくが,後述する内田論文に,Maxima は使われていないし,Welch 検定の正統的とも言える用法も使われていない。

Welch 検定については,私もブログや Yahoo!知恵袋で,何度となく言及してきた。その詳細は,この解説末尾のウェブページを参照してほしい。

要するに,等分散検定をした上で,等分散なら通常の t 検定,等分散でなければ Welch 検定という使い分けは妥当ではない,等分散検定をせずに Welch 検定をしよう,という趣旨なのである。Welch の意図を解説したブログにも書いたが,そもそも,Welch 検定は,等分散か否かを仮定しない,という前提で考案された。非等分散の場合に使われるという前提ではないのである。

統計解析ソフト Rt.test 関数では,デフォルトで,つまり,非等分散の指定をしなくても,Welch検定を実施する。

例えば,次のような2群 x,y を考えて,t.test 関数で,特にオプションを指定せず,平均の差の検定を行なう。

x<- c(2, 2, 3) y<- c(4, 8, 11) t.test(x, y)

結果の概要は次の通りである。

Welch Two Sample t-test
t = -2.5955, df = 2.108, p-value = 0.1156

言うまでもなく,デフォルトで Welch 検定を実施する。

これは,分散分析の関数 oneway.test を利用しても同じである。分散分析は,2群(2標本)以上の平均値の差の検定法である。これまた,3群以上,と誤って解説する大学教員さえいるので注意が必要である。 oneway.test の help解説を読むと

下部の See Also の項目に
The standard t test (t.test) as the special case for two samples
と,ちゃんと書かれている。2群以上の分散分析の中の特殊な場合が t 検定なのである。

前述の2群に対して,oneway.test をデフォルトで使うと,以下のようになる。

dat<- c(x, y) grp<- rep(c(1, 2), c(3, 3)) oneway.test(dat ~ grp)

結果の概要は次の通りである。

One-way analysis of means (not assuming equal variances)
F = 6.7368, num df = 1.000, denom df = 2.108, p-value = 0.1156

当然ながら,前述の Welch 検定の p 値と一致する。それは,分母(denominator)の自由度 2.108 が Welch 検定の自由度となり,F 値の平方根(ここでは正の値としておく)
sqrt(oneway.test(dat ~ grp)$ statistic)
が,t 値に一致するからである。

つまり,t が自由度 n の t 分布に従えば,t2 = F は,自由度 (1, n) の F 分布に従う,という定理が使われている。

三重大・奥村晴彦氏が,ブログt検定で,
最初からズバリ「等分散を仮定しない t 検定」を行うのが正しいやり方である。
と断じているのは,水戸黄門的な爽快感を感じるのだが,日本の大学教員の場合,少なくとも,ネット上で,そのような断言は,そう多くない。

ここまで,R の計算について述べてきたが,ここから,タイトルどおり Maxima の計算について触れる。Maxima は,R と異なり,数式処理専門のフリーソフトであり,その意味では,統計計算は充実していない。しかし,それでもなお,t 検定程度の簡単な検定なら可能である。余談だが,前述の奥村氏が,かつて放送大学の講義で Maxima の解説をしていた。また最近,コクワガタの3型を統計解析した私の研究でも Maxima が使われた。

Iguchi, Y. (2013)
Male mandible trimorphism in the stag beetle Dorcus rectus (Coleoptera: Lucanidae).
European Journal of Entomology, 110: 159-163.


フリーソフトだと信用が無いかのようなトンチンカンな心配が時々聞かれるが,決してそんなことはない。最近,私が統計解析の協力をした松延祥平君(筑波大・大学院)は,ホヤの尾の吸収に関する研究をしたが,フリーソフト R を効果的に使い,そのことを論文にも記している。

Matsunobu S. and Sasakura Y.
Time course for tail regression during metamorphosis of the ascidian Ciona intestinalis
Developmental Biology, オンライン速報版.

修士研究をしていた松延君は,当初,R を全く使えず,それをインストールすることから始めた。その後,それを使いこなし,最終的には見事な分析結果を出した。しかも,これらは全て電子メールとその添付ファイルで何回も私とやり取りして生まれた結果である。

話を戻そう。Maxima の場合,統計解析にはパッケージ stats を使う。その上で,Rで使ったのと同じデータで,t検定をデフォルトで行なってみる。

load("stats")$
x: [2, 2, 3]$
y: [4, 8, 11]$
test_means_difference(x, y);

その結果の概要は次の通りである。

method = Exact t-test. Welch approx.
distribution = [student_t, 2.108029197080292]
p_value = 0.11559643427222

言うまでも無く,Maxima もデフォルトで Welch 検定の結果なのである。デフォルトで14桁まで出力するのは,いかにも Maxima らしい。

t 検定というと,大学の講義では,まず等分散を仮定したt検定を教えるのだが,実際のデータ解析では,まず Welch 検定を考えるべきであることを,R や Maxima が物語っている。

ところで,奥村氏は,そのブログで
事前検定を行うことが不適切であることはだんだん理解されてきている
と述べているが,それが,そうでもないのである。再度言うが,大学教員でさえ,そうでないのである。

最近読んだ論文の一つに,このブログのタイトルに示した内田論文がある。

内田いづみ(2014)
講習会による学習支援効果の分析-情報基礎科目履修者を対象として-
駿河台大学論叢 49: 161-186


リンクをクリックすれば,pdf で読める。

その論文では,等分散検定の結果によって,等分散仮定の t 検定と Welch 検定の使い分けが行なわれている。p.176 以降,実に,5ヶ所連続で,その手順のオンパレードなのである。奥村氏の言うような理解されてきている状況には,ほど遠い感がある。

しかも,この論文では,等分散検定に Excel の F 検定を使っているのだが,その片側検定の出力結果を,そのまま解釈しているようなのである。分散が等しいか否かの検定なのだから,当然,両側検定であろう。

この論文には,他にも奇妙な統計的手法が採られている。

例えば,p.176 の (3) 勉強度合と得点率の変化を見ると,4件法による勉強度合のスコアと,得点率の変化を調べるのに,わざわざ,得点率が上がった集団と下がった集団に2分して,勉強度合スコアを比較しているのである。

上がった集団と下がった集団に2分したということは,前後差を取り,それをプラスとマイナスだけの二値情報に集約してしまったということである。こういうのを情報の損失(loss of information)と言う。

こんなことしなくても,文字通り得点率の変化,つまり,前後差と,勉強度合スコアの相関,例えば,スピアマン順位相関( Spearman's rank correlation)を調べればよいのであり,このほうが,はるかに多くの情報が得られる。

似たようなことを,p.175 の(2)勉強度合の期末試験得点への影響でも,行なっている。ここでは,今度は,4件法による勉強度合のスコアを2件法に集約して検定しているのである。これもまた,相関を調べたほうが,はるかに多くの情報が得られる。

実は,この研究論文を知ったきっかけは,ある学生からのメールで,なぜ相関を調べないのか,という質問によるものだった。もちろん,その学生には,相関を調べたほうが良いと私は伝えた。

内田氏は,大学の情報処理教育センターの教員だそうだ。本論文が,Word や Excel のスキル向上を目指した講習の効果を分析しようとした点は良く理解できる。結果も細かく提示され,同様な研究のメタアナリシスには有益となるだろう。しかし,それだからこそ単にコンピュータを扱うスキルの問題だけでなく,統計分析の理論や手法を熟慮して欲しかった内容であった。

参照ウェブページ
等分散検定から t検定・分散分析(ANOVA)・ウェルチ(Welch)検定への問題点

Welch検定が主流,単純t検定やANOVAは時代遅れ:Statwingの話題から

ウェルチ検定の意図とは: 標本サイズの誤解とExcel計算の話題も含めて

その他の統計学関連の話題

2015年4月26日日曜日

レビュー: 敦賀市における放射線とリスクに関する意識調査


最近読んだ論文で,興味深い調査結果を示したのが,表題に挙げた福井大学による以下の論文である。

篠田佳彦,・山野直樹(2015)
敦賀市における放射線とリスクに関する意識調査
日本原子力学会和文論文誌 14(2), 95-112.

論文の内容は,タイトルそのままの調査を,敦賀市在住 18 歳以上の男女に対して行なった結果とその考察である。

私が特に興味を惹かれたのは,Table 7に示された以下の質問と回答である。

福島産食品の購入を避けたいと思う女性が多い

特に女性では,いまだに,福島産食品の購入を避けたい,という意識が強いのである。この結果に関して,残差分析も行われ,選択項目の比で,男女間に有意な差が認められている。

なお,残差分析の理論計算に関しては,私の統計解説を参照。

カイ二乗検定(独立性検定)から残差分析へ:全体から項目別への検定

さらに気になったのは,男女とも,「中間」,つまり,「どちらとも言えない」という回答が最も多かったことである。「購入を避けたいか?」と尋ねられて,「どちらとも言えない」という回答は,「福島県産食品に不安がある」というネガティブな印象の裏返しだと思うが,他の読者はどう思うだろうか?

これとは別に気になったのは,以下の質問である。

Table 6
Q8-ア 低線量の放射線被ばくは,その被ばく線量に関わらず怖いと思う。

低線量放射線被ばくを怖いと思う人が多い。

回答では,実に,半数以上が,そのように感じているのである。原発が作られ,今後,再稼動に向けた準備が進む敦賀市においても,このような怖さを感じる人が多いとは意外であった。

2015年3月30日月曜日

矢ヶ崎克彦ホームページ開設,辰野外来種ホタル商法の推進者が長野県議選出馬へ


4月19日追記

矢ヶ崎克彦は落選

******************
前辰野町の矢ヶ崎克彦氏が,4月の長野県議選に出馬するということで,ホームページを開設した。

豊かな経験・確かな実績がキャッチフレーズなようだが,辰野町松尾峡の外来種ホタル商法を推進させた中心人物でもある。

県外から買ってきて放流増殖させたゲンジボタルを,あたかも自然繁殖のホタルがごとく宣伝し,それを有料で見せる行政を推進した張本人なのである。

ホームページには,環境保全の推進などと立派なことを述べているが,実際には,外来種ホタル問題を,知っているのに知らんふり,ずっと無視し続けた人物である。

唖然としてしまった。こんな人物が,また伊那谷の政治家になるのか,そう考えると暗澹たる気分となる。

辰野町長 矢ヶ崎克彦氏,4期目任期半ば過ぎるも在来ホタル保護には消極的

矢ヶ崎克彦氏、辰野町長4期目も移入ホタル問題に消極的だった

辰野町,ほたる祭り用の蛍が欲しいと東京・板橋に陳情

長野県辰野のホタル再考: 観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの

辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ

生物多様性無視!へイケボタル生息地を潰して作られた辰野町ホタルの里の遊技場