2024年2月29日木曜日

ゲンジボタル3型の存在を明記した長野県の生物多様性の解説

ゲンジボタル3型の存在を明記した長野県の生物多様性の解説

長野県環境部自然保護課がまとめた長野県の生物多様性ウェブページに,県内におけるゲンジボタル Nipponoluciola cruciata (以前は Luciola cruciata) の生態的(明滅周期の) 3 型(東日本型,西日本型,中間型)の存在が明確に記されている。

ページ上から 1/4 付近の「遺伝子の多様性」という項目に,下記のように,はっきりと書かれている。

長野県中南部に、この中間型である3秒に1回発光するタイプが存在することが確認されました。

都道府県レベルで,ゲンジボタル 3 型の生息を明記した生物多様性の解説は少ない。

しかし当然と言えば,当然である。ゲンジボタル 3 型がいずれも存在することは珍しく,しかも辰野町松尾峡のように, 2 秒型が観光用に大量移入養殖された状態で存在するから, 3 型が混在するのである。

長野県辰野のホタル再考:観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの

冒頭の長野県の生物多様性解説については,実は,私の研究結果が大いに利用された。長野県環境保全研究所発行の長野県生物多様性概況報告書に, Iguchi (2009)Iguchi (2010) として引用されたのがそれである。本文では, p.26, 38, 56 の文献番号 94, 95 がそれに当たる。

前者は,辰野町松尾峡における移入外来ゲンジボタルの繁殖を遺伝的・生態的に明らかにした研究であり,後者は,フォッサマグナ地域におけるゲンジボタル 3 型の存在を回帰分析によって明らかにした研究である。

ゲンジボタルについて触れた生物多様性関連の都道府県や市町村の報告書は珍しくない。しかし,自らの自治体内で学術的研究が行われて, 3 型という多様性が明記された例は少ないものと思われる。

ゲンジボタル 3 型と地形地質との関連については,私の研究室ウェブ解説も参照。

ゲンジボタルの地理的変異と地質学的事件の関連

参考文献

Iguchi Y. (2009) The ecological impact of an introduced population on a native population in the firefly Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae). Biodiversity and Conservation, 18: 2119-2126.

Iguchi Y (2010) Temperature-dependent geographic variation in the flashes of the firefly Luciola cruciata (Coleoptera: Lampyridae). Journal of Natural History, 44: 861-867.