2010年10月9日土曜日

地域ぐるみによるホタル保全活動の促進に関する研究―滋賀県立大学卒業論文


福神啓太(2009)地域ぐるみによるホタル保全活動の促進に関する研究―滋賀県守山市を対象として―滋賀県立大学環境科学部卒業論文

この論文は,タイトルには,滋賀県守山市を対象として,と書かれているが,実際には,全国の自治体のホタル保全活動の歴史,方法,現状などを丹念に調査して示したものである。 指導した井手慎司教授のウェブサイトからPDFを自由にダウンロードして読めるので,ここで詳細をコメントするより,実際に目を通してもらうのが良いだろう。
 http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/lab/ideken/sotsuron/f-08fukujin-soturon.html

私自身の研究を含め,ホタルの生物学的研究は多いが,日本各地のホタル保全活動を調査した研究は非常に少ない。その意味で特筆すべき論文であり,特に生物多様性保全が重視される昨今において,生物研究者にも読んでもらいたい。研究者でなくても,ホタル保護に関心ある方々は,もし全文(93ページ)読むのが面倒ならば,要旨の部分だけでも読むと良いだろう。

本当は,福神氏に全国ホタル研究会で発表してもらいたかったが,それは実現してない。近いうちに,全国ホタル研究会の会誌や情報誌で,私が取り上げるつもりである。

調査対象となった自治体はもちろん,福神自身もホタルを観光と環境のシンボルと捉えていることが分かる。しかし欲を言えば,前述の通り,生物多様性保全が重視される昨今において,この点からの調査考察が欲しかった。 例えば第6章では,長野県辰野町のホタル保護について書いているが,県外からゲンジボタルを大量に移入し,それを養殖して増やしていることについて全く触れてない。本論文を公表後,この事実を指摘された井手教授が移入を示す論文の一つを追記したのが,P73の(注)である。

ただしこの点は,生物科学研究所のウェブページ
辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ (URL が変更された)
あるいは,辰野町の自然保全のページ
長野県辰野のホタル再考: 観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの
にも書いたように,辰野町役場がこれまで外来種ホタル移入を隠してきているのが実情なので,著者を責めるのは酷かもしれない。しかし, ゲンジボタルには顕著な地理的変異があるため,その移動は全国的にも問題視されており,環境省の調査でも地域個体群維持を損なう懸念が指摘されている(環境庁自然保護局生物多様性センター,2000, 生物多様性調査,遺伝的多様性調査報告書)。

特に辰野の場合,
  1. 県外からのゲンジボタル移入によって,かえって在来ゲンジボタルが絶滅してしまったこと
  2. この影響は下流の在来ゲンジボタルにまで及びつつあること
  3. にもかかわらず,町役場は観光優先で在来ゲンジボタル保護対策を採らないこと
などの問題点が指摘されている。

今後,福神氏あるいその後輩が,各地のホタル保護の実態を調査しようとするならば,移入があったかどうか,また単なる「ホタル保護」ではなく,「地域個体群保全」を念頭においているかどうかも是非調べてもらいたい。

今年(2010年)は,名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催される。この条約やそれに対応する生物多様性基本法(平成20年6月6日公布施行)でもは,種内変異まで含め保護することが重視されている。ホタルを保護する主体が市町村など地方自治体ならば,少なくともこの条約や法律の趣旨を知っているべきであろう。しかし果たして理解してるのかどうか,そんな点を調べる研究もしてほしい。

ちなみに,生物多様性基本法公布施行後,約1ヶ月たって,そのコピーを辰野町役場に持っていって見せたところ,ホタル養殖担当者は,このような法律が国会で議論されてきたことも,その内容も,公布施行されたことも全く知らなかった。こんな状況でもホタル保護を長年言い続けた自治体(この場合,辰野町役場)があったこと知るべきである。

松尾峡は,今や,外来種ほたるの名所なのである。しかも,ほたる保護にも教育にも役立たない金属遊具を大金(たぶん税金)を投じ,わざわざ緑地を潰して建設するという尋常でない行政が継続している。それについては,次のブログを参照して欲しい。
松尾峡 ほたる童謡公園 こんなモノいらない辰野町