2010年12月20日月曜日

茅野市ミヤマシロチョウ保護をめぐって:生物多様性保全を重視した保護ができるか?


12月18日,長野県茅野市の八ヶ岳博物館で,茅野ミヤマシロチョウの会と県環境部自然保護課が,生物多様性地域懇談会を開催した(19日の茅野市民新聞に記事掲載)

私自身は初耳だったが,そこで会側から,本種の個体数維持の目的で外来の吸蜜植物移入を考えたが県が認めなかった,という経緯が明らかにされたという。

ここのミヤマシロチョウは自然公園法の指定動物(八ヶ岳中信高原国定公園の特別地域内)であるが,自然公園法には生物移入に罰則がないことや,外来生物法では特定の生物の移入しか規制してないという問題点も会側から指摘されたという。

ちなみに,本種は県天然記念物でもあるが,それを規定した文化財保護条例にも移入規制は明記されていない。

生物多様性保全の観点から言えば,他地域からの生物移入は規制されるのだが,この理念に法整備が追いつかない現状を露呈したのが,今回の懇談会であった。

2010年12月17日金曜日

2010年ふたご座流星群

2010年ふたご座流星群をカメラ固定撮影。
12月15日1時28分ころ。
写真の赤矢印の先,ふたご座のζとλの間を,左上から右下に流れたのがわかるでしょうか?
双子の弟ポルックスのひざの間付近を流れたことになります。
写真の右端がオリオン座に当たります。


肉眼では,もっと明るかったのですが,なんとも貧弱な写真になってしまった。
ファイルサイズ減らすために画質落としてあるので,よけいそんな感じです。

西湖で発見されたクニマス:生物多様性保全の観点から


秋田県田沢湖で絶滅したと思われていたクニマスが,山梨県西湖で見つかった。
朝日新聞2010年12月15日
共同通信2010/年12月15日

このニュースは嬉しい反面,移入されたものという見方もでき,実際,ネット上では,そのような意見も見当たる。

ホタルの移入問題を研究している私も,生物多様性保全という観点も含め,感想を述べる。

まず,ホタルに関しては,長野県辰野町松尾峡では,県外から観光用に移入したゲンジボタルで地元のゲンジボタルが絶滅した例がある(辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ)。

これは辰野はもちろん,近隣地域にもゲンジボタルが当時生息していたにもかかわらず,それらを採集して増やすのは大変だから(辰野町誌の記述)という安易な理由で県外から移入した結果,こうなってしまった。

今回のクニマスが西湖へ移入された理由は,はっきりしない。
単なる増殖のためなら,現在の生物多様性保全の考えからすれば安易だったと言える。

上記の朝日新聞の記事(12月15日)で,クニマス研究者・杉山秀樹・秋田県立大客員教授が,
「田沢湖のクニマスが絶滅したのは事実。いわば国内産外来種」
とコメントしているが,私もそのような感想を抱いた。

ただし,種の絶滅を避けるためなら,ベストと言えなくても,次善の策だったと思う。

最近も,静岡ー山梨間の中部横断道建設に際して,希少なアカハライモリとモリアオガエルを移住させた例がある。
http://www.ktr.mlit.go.jp/koufu/news/h22announce/h220917.pdf

生態系保護のためには,道路を作らないのがベストだろうが,作ることが前提であれば,絶滅する恐れがある生物には,このような措置もありうる。

また,数十年前には,生物移入ということは,ごく普通のことだったという研究がある。

「なぜ移入種は排除されなければならないのか? 」
瀬戸口明久

この考えからすれば,他地域へのクニマスの放流は,もっと多く場所にあったかもしれない。
今回,偶然残っていたものが偶然発見されただけ,ということかもしれない。

この西湖のクニマス,既存の生態系に影響を与えなかった,そして今も与えていないのだろうか?

希少種だけに保護することは大切だが,保護一点張りではなく,既存の生態系への影響調査もするべきだ。

西湖では,クニマス保護のため,禁猟も検討されているようである。
朝日新聞2010年12月17日

しかし,シカのように,保護しすぎて数が増えすぎ,生態系を乱す例もあることを念頭に置くべきでだ。

辰野のゲンジボタルの場合は交雑が起きず,移入ゲンジボタルばかりが増えて,在来ゲンジボタルの絶滅が起きた。

上記の朝日新聞記事によると,西湖のクニマスでも交雑は起きていないようである。

過ぎたるは及ばざるが如し,などとならないように注意して保護に取り組んでほしいと思う。

2010年12月13日月曜日

辰野町と上高地の移入ホタル問題


上高地のゲンジボタルと志賀高原のゲンジボタルは,ともに高地の温泉地に生息する。そのため,両者を同じ外来種とみなす意見が見られる。しかしながら,両者は遺伝的には全く異なる。志賀高原ゲンジボタルは長野県在来種であるが,上高地のゲンジボタルは,長野県にとって松尾峡ゲンジボタルと同じ「外来種」なのである。次のページの解説を参照してほしい。

上高地,志賀高原,辰野町のゲンジボタル:その駆除を巡って

長野県内における移入ゲンジボタルの遺伝子調査の結果が,2010年の全国ホタル研究会・志賀高原大会で7月17日に発表された。

このうち,上高地の移入ゲンジボタルに関しては,最近さらに研究が行われ,新聞にも掲載された。
上高地にホタル移入か 規制区域で「生態系に影響」懸念(中日新聞,2010年12月11日)
上高地のホタルは人が持ち込みか NPOが発表(信濃毎日新聞,2010年12月12日)

辰野町松尾峡と上高地のゲンジボタルが,人為的に移入された外来種であることは,次の論文に記されている。


遺伝子解析による移植されたゲンジボタルの移植元判別法

全国ホタル研究会誌 第43巻 (2010年) 27-32
日和佳政・大畑優紀子・草桶秀夫・井口豊・三石睴弥


要旨
辰野町松尾峡と上高地のゲンジボタルのミトコンドリアDNAのND5遺伝子を調べて移植元の判別法について検討した。

その結果,松尾峡では,自然発生ゲンジボタルとは遺伝的に異なる滋賀県のゲンジボタルが交雑を起こさず完全に定着していることが判明した。ここでは滋賀県から意図的に観光用ゲンジボタルを購入し,移入養殖していることが歴史的事実としてあり,それを科学的に裏付ける結果が出た。

また,上高地では京都から神奈川県にまたがる地域に生息する西日本グループに帰属する県外ゲンジボタルであることが判明した。移植元まで特定できなかったが,移植されたという三石睴弥の情報を裏付けた。

結果として,辰野町松尾峡と上高地のゲンジボタルは,同じ西日本型サブグループ3に属することも判明した。

福井県内のゲンジボタルの遺伝子研究結果から推定すると,十数km以上離れた所から移植を行うことは,遺伝子多様性という点から大きな問題であり,今回の長野県内のゲンジボタル移入地の研究結果もそれを示している。


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追記

上記のように,上高地のゲンジボタルは外来種であるので,2014年になって,環境省は駆除を検討し始めている。
朝日新聞 2014年4月10日
上高地の外来ホタル駆除へ 環境省

信濃毎日新聞 2014年04月09日
上高地、蛍の光と決別 「生態系に懸念」駆除へ

辰野町・松尾峡では,観光用に移入された外来種ゲンジボタルのために,本来そこにいた在来ゲンジボタルが絶滅するという事態を引き起こしている。ホタルが舞う美しさだけに惑わされないでほしい。

なお,今後の上高地の自然保護計画に関しては,中部山岳国立公園・上高地連絡協議会による上高地ビジョン2014(仮称)に詳しく書かれている。この中で,p.27に,
ゲンジボタルなど外来種の侵入・定着状況などを調査し、効果的な防除方法を検討
と記されている。

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追記

国が年内(2014年)にも,ゲンジボタル,メダカ,カブトムシなどで,国内外来種となっている場合の対策強化を検討し始めた(毎日新聞 2014年05月12日)。辰野町の外来種ゲンジボタル養殖についても規制してほしいところである。

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追記

上高地の外来種ゲンジボタル駆除を巡っては,2014年8月17日に,テレビ朝日・サンデースクランブル美しいホタルを駆除へ・夏の風物詩に何がで,詳しく報道された。この番組に私も出演し,外来種ホタルの悪影響に言及した。

参照(

2010年12月6日月曜日

夕暮れ時の諏訪湖の白鳥

12月4日,岡谷市横川川の河口に漂う白鳥。
3羽飛来したうちの1羽。

遠くに見える雪をかぶった山々は八ヶ岳。

2010年11月27日土曜日

リニア新幹線が東海地震対策に?

朝日新聞・経済気象台(2010年6月24日)で,

「リニア新幹線は東海地震対策の柱の一つであることを忘れてはならない」
http://www.asahi.com/business/topics/column/TKY201006230482.html
と主張しているのには驚いた。

気象庁は,東海地震に際して,山梨・長野南部で震度6以上を想定している。
http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/hantekai/q5/q5.html

また,著しい被害が予想される地域が、大規模地震対策特別措置法(大震法)により「地震防災対策強化地域」として指定され,山梨から長野にかけてリニアのルート沿いが,その地域なのである。
http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/hantekai/q1/q1.html

山梨県が想定した各種被害の地域を見ても,リニア通過ルートが引っかかってくることがわかる。
http://www.pref.yamanashi.jp/shobo/documents/96494003966.pdf

上記の経済気象台では,東海地震によって東名高速道路や東海道新幹線の被害を受ける可能性を強調しているが,山梨・長野南部の被害想定には全く触れていない。

そもそも,東海地震対策を言うなら,北陸新幹線のほうが安全であるが,こちらの早期完成には全く触れてない。

この経済気象台の筆者は,リニアが受ける地震被害の危険性を隠して,メリットばかり強調している。

2010年11月19日金曜日

長野県クマ捕殺か放獣か,第2期特定鳥獣保護管理計画をめぐって

信濃毎日新聞11月18日32面(地域面)によると,長野県ではクマ捕殺か放獣か,地域で対応が大きく異なるという。

北信(県北部)では、今年97頭捕獲し全殺処分,「放獣に住民の理解が得られない」という。

一方、木曽地域(県南西部)では、68頭捕獲し24頭放獣(35%),「初めて捕まったクマは放獣する方針,住民も理解している」という。

「捕殺か放獣か以前に,地元の人たちとクマを防ぐ対策を」と,クマ対策員のコメント。この点は私も全く同感である。

疑問に思ったのは,「クマ捕殺か放獣か,明確な基準がない」という記者のコメントである。

長野県で策定した第2期特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)(平成19年4月1日~平成24年3月31日)
http://www.pref.nagano.lg.jp/rinmu/shinrin/04chojyu/08_kuma2kikeikaku/bear2ki.pdf
によると,

移動放獣の基準・(ア)殺処分対象個体,として(p20)
捕獲された個体のうち、次のいずれかに該当する個体については殺処分としてもやむを得ない。

  • 人身被害を起こした個体
  • 日中住宅地に出没しているなど、人間を恐れない個体
  • 電気柵の設置等、防除しても壊して被害を出すなど、農作物への執着が強く学習効果が期待できない個体
  • 以前に放獣した個体(錯誤捕獲による個体を除く。)で被害防除をしたにもかかわらず、被害を再発し、再度捕獲されたもの
 と書かれている。

この基準は知られているのだろうか?少なくとも一般県民は,この第2期特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)の存在すら知らないのではないか。

前述の信濃毎日新聞記事によると,長野県では今年すでに,クマ捕獲上限数151頭の2倍以上の325頭捕殺しているという。

しかし,第2期特定鳥獣保護管理計画をまずPRしなければ,その場その場の判断や住民感情で,いくらでも捕殺されてしまうだろう。
 
富山や岐阜では,クマ捕獲上限を超え,県が狩猟自粛要請している有様である。
 
毎日新聞・地方版 2010年11月12日http://mainichi.jp/area/toyama/news/20101112ddlk16040518000c.html
 
長野県でも,せっかく第2期特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)を定めたのだから,まずそこに示された捕獲上限や殺処分基準を県民に広く知ってもらうことが重要であろう。しかし,少なくとも一般人に対して県が積極的PRしたという話は聞かない。また,計画策定に当たって公聴会が開かれたはずだが,どのくらいの県民意見を集約できたか分析されてないようである。形式的には公聴会をやった,ということであろうか?
 
これでは,クマが人里に多数出現するようになってから,殺せ,殺すな,という議論が沸騰しても,第2期特定鳥獣保護管理計画(ツキノワグマ)は機能しないであろう。
 
前述の信濃毎日新聞記事では,この保護管理計画について言及がなかった(取材してない?)ので,私は信濃毎日新聞社に質問のメールを送った。
 
長野県が「生物多様性地域戦略」を策定中の今,私は専門のホタル保護を通じて,県自然保護課に色々意見している。その際も,計画内容を県民ひとりひとりに知ってもらうという努力が県には足りないように感じている。これは私だけの感想ではなく,11月10日に長野県庁で開かれた「生物多様性長野県戦略策定委員会」において,複数の委員からも似たような感想が出された。

皆さんは,第2期特定鳥獣保護管理計画に関する県の対応をどう思うだろうか?

2010年11月12日金曜日

生物多様性長野県戦略策定委員会を傍聴してきました

11月10日に長野県庁で開かれた「生物多様性長野県戦略策定委員会」を傍聴してきた。



委員から,千葉県ではタウンミーティングが開催されていることや,生物多様性と言っても一般人には理解できないなどが取り上げられ,県のPR不足が指摘された。私も同感。しかし,A4版60ページにもおよぶ「長野県の生物多様性の概況(中間報告)」をまとめあげた努力には敬意を表したい。これは複数の委員も賞賛していた。

ただし,ゲンジボタルの地理的変異の記述が不正確であったので,委員会後,自然保護課の菅谷行博・課長に指摘され,これに関し,私から論文と資料を自然保護課の窪田達央氏に送信した。同課長からは,COP10を機会に長野県でも生物多様性保全について広く知らせたいとの個人的談話も得る。ぜひ,お願いしたい。

概況(中間報告)の中には,辰野町に外来種の巻貝コモチカワツボが生息しているとの記述もあった。コモチカワツボに関しては,国立環境研究所の侵入生物データベース「コモチカワツボ」を参照して欲しい。

本種は,カワニナと一緒に移入されることが多く,全国ホタル研究会でも警告している(ホタル情報交換)。また,滋賀県では条例で指定外来種になっている(ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例第27条第1項)。山口県でも県自然保護課が,ホタル保護に関連して,繁殖に注意を促す(ホタルの餌にご注意を)。

もし,辰野でもホタル養殖事業関連で移入されたなら,大きな問題だと思う。もしそうでなくても,県内最大(国内でも最大)のホタル養殖地・辰野で外来種のコモチカワツボが見つかったということ自体も問題である。それは,ホタルが多ければカワニナも多く,従って,コモチカワツボも増えやすい,という状況が生まれる可能性があるからだ。辰野町松尾峡の移入ホタルは,下流の在来ホタルにも影響を与え始めている(辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ
URL が変更された)。

町役場は,コモチカワツボ繁殖抑制に取り組んでもらいたいし,県からも要請してほしいが,ともにその気配は無い。 悲しいことだ・・・。

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2016年4月11日追記

2011年に作成された長野県生物多様性概況報告書では,辰野町松尾峡の外来種ゲンジボタルも取り上げられた。

そして,
辰野町に移入されたゲンジボタルは在来の集団を駆逐し、この地域特性を攪乱しているとの指摘がある(p.55–56)
と記載された。


2010年11月7日日曜日

長野県生物多様性地域戦略は,いかにも,お役所目線では?

朝日新聞の長野県面(2010年10月31日)で,同県が生物多様性地域戦略の策定に着手し,それに関する懇談会の開催を希望する団体を募集していることが取り上げられた。
http://www.pref.nagano.jp/kankyo/hogo/biodiv/youryou.pdf

しかし約2ヶ月たっても,応じてきた団体は少ない,とのことである。

ある森林保護団体は「いきなり生物多様性と言われてもよく分からない」と話し,県自然保護課は「趣旨がうまく伝わっていないのかも」と戸惑いを見せている,とのことである。

長野県自然保護課の発想は,いかにも上から目線で,県民に一方的に要請しているだけのような気がしてならない。

例えば千葉県の場合,「生物多様性ちば県戦略」の策定に当たっては,

まず,H18年にタウンミーティングが県内各地域で20回開催され,H19年に県民会議が設置され,戦略の内容が提案された。

「行政が素案を示すのではなく白紙の段階から政策提言」が行われたという。
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/initiatives/docs/u001/sub_c003/06.pdf

県民会議実行委員は,その後も随時募集され,団体であろうと個人であろうと,誰でも登録できるようになっている。
http://www.pref.chiba.lg.jp/syozoku/e_shizen/tayosei/kenmin/bosyu22.html

一方,長野県の場合はどうだろうか。

生物多様性戦略のタウンミーティングなど聞いたことがない。
私が見逃してるのかもしれないが,少なくとも,県内各地で行われたということはないようだ。

また,長野県生物多様性地域懇談会は,なぜか,「5名以上の団体で申し込み」となっている。
http://www.pref.nagano.jp/kankyo/hogo/biodiv/youryou.pdf

このように,長野県生物多様性地域戦略の策定に当たっては,県民ひとりひとりに目を向け,全員に参加してもらうという意識が希薄なのである。

相撲を知らない人を呼んできて,「土俵を作ったから,相撲をとれ」と言っているようなものだろう。

これでは,前述の森林保護団体の「いきなり生物多様性と言われてもよく分からない」という感想も,当然である。

長野県自然保護課は,

1.生物多様性と何か
2.その保全に当たっては,何が問題となっているのか
3.私たちに何ができるのか

を,県内各地に出向くなり,市町村役場に頼むなりして,県民に「直接説明」すべきであろう。

そうしなければ,生物多様性地域戦略の策定は,結局,役所の仕事,県民には直接関係ないこと,となってしまう気がする。


2010年11月5日金曜日

八戸北高校,COP10生物多様性交流フェアでゲンジボタルDNA研究発表


2016年7月11日追記
7月8日に始まったTBSの新しいドラマ・神の舌を持つ男,第1話「殺しは蛍が見ていた」のホタル関連部分は,私が監修をした。

その中で,主人公らの後ろに設定されたホタル研究のポスターのひとつに,このブログで述べる八戸北高校の研究成果が取り上げられ,ちらっとだが,テレビに出た。ただし,ストーリーはフィクションなので,八戸北高校の名称は出なかった。

以下のページ参照。

ドラマ神の舌を持つ男・殺しは蛍が見ていた,辰野町がモデル

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生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)関連イベント「生物多様性交流フェア」で,青森県立八戸北高校の生徒がゲンジボタルの遺伝子研究の成果を発表した。

http://www.daily-tohoku.co.jp/kikaku/tyouki_kikaku/report/report_188.htm

全国各地のゲンジボタルのDNAを調べて,在来のものか,移入されたものかを判別するという研究。

生物多様性保全が重視される今日,若い世代にこのような研究をしてもらったり,それに興味を持ってもらうことは非常に大切である。

指導したのは,福井工業大の草桶秀夫教授。
草桶氏は長野県辰野町の移入と在来ゲンジボタルのDNAを初めて調べた研究者でもある。

従来,このような移入が行われると,在来種との間での交雑が問題となる。
しかし辰野町松尾峡の場合,交雑は起きず,移入したゲンジボタルが在来ゲンジボタルを滅ぼしてしまったことを明らかにした。

つまり松尾峡では,地元のゲンジボタルを保護して増やしたのではなく,県外から移入して増やしたことを遺伝的にも明らかにしたのである。

辰野の結果も含め,今回の八戸北高の成果を,日本のゲンジボタルの多様性を保全する上で役立ててもらいたい。

八戸北高は文部科学省指定のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)。
長野県でゲンジボタル研究に関わる自分としては,長野県内のSSHにもこのような研究をしてほしかった。

この研究のことは,私の地元,諏訪地域の市民新聞グループ各紙にも掲載された。
母校,諏訪清陵高校もSSHだが,あまり関心ないようだったが・・・

2010年10月31日日曜日

生物多様性無視!へイケボタル生息地を潰して作られた辰野町ホタルの里の遊技場


辰野町ほたる童謡公園:自然破壊・生物多様性喪失の象徴

2016年4月7日追記

2014年に,数千万円かけて新たな大型遊具施設ができている。それについては,次のブログ参照。
松尾峡 ほたる童謡公園 こんなモノいらない辰野町

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前回のブログ
生物多様性を無視した辰野町ほたる祭り駐車場
に引き続き,下の写真で,ヘイケボタル生息地を潰して作られた辰野町松尾峡の遊技場(観光施設?)を紹介する。ここはそれまで水田地帯でヘイケボタルの生息地であった。

この施設の向こう側が,観光客の訪れるゲンジボタル養殖地である。観光客は,この施設の横を通ってホタルを見に行く。

ほたる童謡公園は生態系破壊,生物多様性喪失の象徴である。

ほたる童謡公園.自然破壊・生物多様性喪失の象徴でもある.

この遊戯場は,寒さ厳しい冬季には,何の役にも立たない。実際,現在はさび付いて「使用禁止」となっている遊具もある。

ヘイケボタルは冬季間,水が引けた水田地帯で冬眠することが知られている(三石暉弥,1990,ゲンジボタル.信濃毎日新聞社などを参照)。そのような場所を潰して,そしてヘイケ(たぶん幼虫)を殺して,成り立った施設なのである。

下の写真で,この施設から道路(観光客が通る道)を挟んだ北側(上流側)の風景を見て欲しい。のどかな田園地帯である。上の写真の施設も,以前は,このような風景だった。

ほたる童謡公園周辺の環境

そもそも,この田舎町,この写真のような水田地帯や野原の中で子供達に遊んでもらう方法を考えるべきだったあろう。前回紹介した駐車場同様,この遊技場も町が公共施設として建設したものである。何のための遊技場なのか?駐車場同様,観光用ゲンジボタル養殖優先の町の姿がここにある。

ホタルの里,ホタル保護の町,が聞いて呆れる。

長野県公式観光ウェブサイトでは,この施設を含む場所を
「小さな生物の生活環境を守り、自然に生息する空間を創出しています。」
と紹介。

おかしな論理ではないか?

小さな生物の生活環境を守るつもりなら,元々このようなものは必要ない。長野県の自然保護の意識は,こんなものだったのか。情けない・・・。

ほたる観光客は,ホタル保護育成協力金として300円徴収される。しかし,こんな生態破壊施設の維持費にそれが使われないことを,私は切に願う。

さらにこの公園,ホタルシーズン以外には,パラグライダー愛好家たちの着陸場として利用され,それを町も黙認してきたのである。その結果が,最近のパラグライダーの女児激突事故。いったい,何のための,誰のための公園作りだったのか・・

あるサイトでも,この童謡公園の生態破壊を記している人がいた。

辰野ほたる祭りでエコの話
保護する蛍もゲンジホタルのみであり、地元のもともといたヘイケボタル・クロマドボタルなどの違う種の蛍については無視され、それらの生活環境が著しく損なわれてきた
私も全く同感である。

2010年10月22日金曜日

生物多様性を無視した辰野町ほたる祭り駐車場


辰野ほたる祭りの駐車場となる,ほたる童謡公園駐車場である。松尾峡ゲンジボタルは観光用に移入養殖された外来種である。その外来種養殖事業の結果として,ここに本来生息していた在来ゲンジボタルは絶滅してしまった。
辰野町役場は,それを隠して,地元のホタルを保護し増やしてきたと宣伝している(辰野町観光サイト)。その上で,役場は観光客から,ホタル保護育成協力金や駐車場料金を徴収している。



辰野町ほたる童謡公園のホタル観光客用駐車場は,かつては水田で,ヘイケボタルの生息地でもあったが,ゲンジボタル観光事業の目的で駐車場と化した。ホタル祭期間中は有料となり町の収入源となる。1990年代に水田地帯であったことは,国土地理院の古い航空写真で見られるので比べてほしい。例えば,以下の航空写真は,1974-1978年のものである。



水田の維持管理は大変だろう。ヘイケはゲンジに比べ見劣りし観光目的に適さないから,死滅しても気にしない人も多いだろう。観光客も近くに駐車場があれば楽だろう。さらに有料駐車場とすることで経済的利益も生むだろう。

しかしながら,ホタルの里,ホタル保護の町を標榜するならば,観光客に無理してもらっても,ヘイケボタル生息地もきちんと保護すべきだった。90年代は既に生物多様性保全が重視されていたにも関わらず,ここは経済・観光優先の事業だった。

このように,外来種ホタルを地元ホタルと称して養殖し,観光客集めをする辰野町の姿は,昨年7月8日に放送されたTBSドラマ「神の舌を持つ男」,第1話「殺しは蛍が見ていた」のモデルにもなった。それについては,私の研究室ブログ参照。

2010年10月15日金曜日

生物多様性地域戦略策定の足取り重く

読売新聞(2010年10月8日)によると,「生物多様性地域戦略」を策定した都道府県は8道県にとどまる,とのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/eco/news/20101008-OYT1T00766.htm

長野県の場合も,
「戦略として示せる状態になっていない」
との回答を県自然保護課から得た(10月1日)。

COP10が開催される愛知県の隣県であり,上流にも当たる長野県として,遅すぎる!!


2010年10月9日土曜日

地域ぐるみによるホタル保全活動の促進に関する研究―滋賀県立大学卒業論文


福神啓太(2009)地域ぐるみによるホタル保全活動の促進に関する研究―滋賀県守山市を対象として―滋賀県立大学環境科学部卒業論文

この論文は,タイトルには,滋賀県守山市を対象として,と書かれているが,実際には,全国の自治体のホタル保全活動の歴史,方法,現状などを丹念に調査して示したものである。 指導した井手慎司教授のウェブサイトからPDFを自由にダウンロードして読めるので,ここで詳細をコメントするより,実際に目を通してもらうのが良いだろう。
 http://csspcat8.ses.usp.ac.jp/lab/ideken/sotsuron/f-08fukujin-soturon.html

私自身の研究を含め,ホタルの生物学的研究は多いが,日本各地のホタル保全活動を調査した研究は非常に少ない。その意味で特筆すべき論文であり,特に生物多様性保全が重視される昨今において,生物研究者にも読んでもらいたい。研究者でなくても,ホタル保護に関心ある方々は,もし全文(93ページ)読むのが面倒ならば,要旨の部分だけでも読むと良いだろう。

本当は,福神氏に全国ホタル研究会で発表してもらいたかったが,それは実現してない。近いうちに,全国ホタル研究会の会誌や情報誌で,私が取り上げるつもりである。

調査対象となった自治体はもちろん,福神自身もホタルを観光と環境のシンボルと捉えていることが分かる。しかし欲を言えば,前述の通り,生物多様性保全が重視される昨今において,この点からの調査考察が欲しかった。 例えば第6章では,長野県辰野町のホタル保護について書いているが,県外からゲンジボタルを大量に移入し,それを養殖して増やしていることについて全く触れてない。本論文を公表後,この事実を指摘された井手教授が移入を示す論文の一つを追記したのが,P73の(注)である。

ただしこの点は,生物科学研究所のウェブページ
辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ (URL が変更された)
あるいは,辰野町の自然保全のページ
長野県辰野のホタル再考: 観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの
にも書いたように,辰野町役場がこれまで外来種ホタル移入を隠してきているのが実情なので,著者を責めるのは酷かもしれない。しかし, ゲンジボタルには顕著な地理的変異があるため,その移動は全国的にも問題視されており,環境省の調査でも地域個体群維持を損なう懸念が指摘されている(環境庁自然保護局生物多様性センター,2000, 生物多様性調査,遺伝的多様性調査報告書)。

特に辰野の場合,
  1. 県外からのゲンジボタル移入によって,かえって在来ゲンジボタルが絶滅してしまったこと
  2. この影響は下流の在来ゲンジボタルにまで及びつつあること
  3. にもかかわらず,町役場は観光優先で在来ゲンジボタル保護対策を採らないこと
などの問題点が指摘されている。

今後,福神氏あるいその後輩が,各地のホタル保護の実態を調査しようとするならば,移入があったかどうか,また単なる「ホタル保護」ではなく,「地域個体群保全」を念頭においているかどうかも是非調べてもらいたい。

今年(2010年)は,名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催される。この条約やそれに対応する生物多様性基本法(平成20年6月6日公布施行)でもは,種内変異まで含め保護することが重視されている。ホタルを保護する主体が市町村など地方自治体ならば,少なくともこの条約や法律の趣旨を知っているべきであろう。しかし果たして理解してるのかどうか,そんな点を調べる研究もしてほしい。

ちなみに,生物多様性基本法公布施行後,約1ヶ月たって,そのコピーを辰野町役場に持っていって見せたところ,ホタル養殖担当者は,このような法律が国会で議論されてきたことも,その内容も,公布施行されたことも全く知らなかった。こんな状況でもホタル保護を長年言い続けた自治体(この場合,辰野町役場)があったこと知るべきである。

松尾峡は,今や,外来種ほたるの名所なのである。しかも,ほたる保護にも教育にも役立たない金属遊具を大金(たぶん税金)を投じ,わざわざ緑地を潰して建設するという尋常でない行政が継続している。それについては,次のブログを参照して欲しい。
松尾峡 ほたる童謡公園 こんなモノいらない辰野町


2010年9月17日金曜日

ある科学社会学者からのメール: 在来種保護を巡って


このページには,辰野町の外来種移入ホタルに関して,科学社会学の専門家からのメールが掲載されていましたが,かなり以前のものであり,かつ,本来,私宛の個人的メールであったので,現在,記事を削除しています。

その内容は,人間が考える自然とは何か,というものでした。これに関しては,辰野の問題に限らず,もう少し広い分野で再考することがあれば,また別ページで,それについて書きたいと思っています。

2010年8月12日木曜日

生物多様性保全の観点から移入種の扱いを考える---瀬戸口論文を読んで---


瀬戸口明久(2002)の「なぜ移入種は排除されなければならないのか?― 紹介:ポーリー「アメリカの生態学的独立をめぐる対立」(生物学史研究,69: 41-51)は,生物多様性保全の観点から移入種の問題を研究している人々あるいは移入種問題に興味を持っている人々に,読むことを薦めたい論文である。

この論文で結論として述べられている
  • 生態的リスクと社会にもたらす影響の両方を評価する
  • 自然保護の方針は,専門家と市民との対話を通じて決定されていくべき
という意見には,私も全く同意するし, 長野県辰野町で県外から移入したゲンジボタルを大量養殖し,在来ゲンジボタルを絶滅に追いやってしまった辰野町役場 に対し私が訴えていることでもある(井口豊 2010, 長野県辰野町における移入ゲンジボタルについて.全国ホタル研究会誌 43: 23-26. PDF のURL が変更された)。 

生物多様性保全に関心を持つ人々には実際に読んで,移入種への対応を考えてもらいたい。

なお,辰野町における外来種ホタル移入の生態的な悪影響,および,それに対する行政の怠慢(欺瞞?)に関しては,以下の私のウェブページに詳しく解説されている。

辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ
長野県辰野のホタル再考: 観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの


2010年8月2日月曜日

辰野町における移入ホタル大量養殖問題


追記

辰野町における外来種ホタル移入養殖の歴史的経緯や生態系破壊の状況,および,町役場や議会の対応,矢ヶ崎克彦・前町長や加島範久・現町長の態度に関しては,以下のページにまとめられている。

辰野の移入(外来)ホタル 生物多様性の喪失へ (URLが変更された)
長野県辰野のホタル再考:観光用の移入蛍で絶滅した地元蛍 松尾峡ほたる祭りの背景にあるもの


第43回全国ホタル研究会全国大会での黒田大三郎氏の講演内容や,研究者による発表内容を受けて,長野県の辰野町役場が松尾峡で移入ゲンジボタルを大量養殖している問題が更新されました。


主な更新点は,

  • 辰野町が国内最大の移入ゲンジボタル養殖地であること
  • 松尾峡にいるゲンジボタルが,すっかり関西系集団になってしまったこと
  • 下流へ移入ゲンジボタルが拡散していること
  • 養殖を役場が公共事業として行っていること
  • これらが生物多様性条約や生物多様性基本法に反する行為であること
  • 牛越徹(うしこし・とおる)長野県大町市市長のコメント
を載せたことです。
辰野町での移入ホタル問題には,何人もの方々からコメント頂きましたが,牛越氏のコメントは,生物多様性基本法との関連で参考になると思います。牛越さん,ありがとうございました。

以下に,生物多様性保全の点から見た,辰野町松尾峡における移入ホタル大量養殖の問題点と役場に対する提言を示しました。


1.はじめに

新聞などマスコミの報道で既にご存知の方もいると思うが,長野県辰野町松尾峡(上の地図参照)では,移入ホタルの大量養殖が問題となっている。ここは,1926年に「ホタル発生地」として,長野県天然記念物に指定され,さらに,1960年に再指定された。ところがその後,1960年代に,膨大な数のゲンジボタルが他県からの購入や譲渡によって繰り返し放流された。

下図は,私や福井工業大学の草桶秀夫教授グループが,松尾峡のゲンジボタルを,その上流3kmの岡谷市,辰野に残っている自然発生地,関西のゲンジボタルのそれぞれと発光周期や遺伝子を比べた研究結果である。移入ゲンジボタルは在来(つまり,松尾峡に本来住んでいた)ゲンジボタルに壊滅的打撃を与え,松尾峡には,すっかり在来ゲンジボタルがいなくなったことが分かってきた。

このような移入種問題では,通常,遺伝的汚染(あるいは遺伝子汚染)と呼ばれる外来種と在来種の交雑が問題になる。しかし松尾峡では,これまで分かっている限り交雑は起きておらず,関西系の移入ゲンジボタルばかりが増えている結果となっている。この点は,今年2010年に志賀高原(長野県山ノ内町)で開催された全国ホタル研究会で,福井工業大学の草桶秀夫教授の研究グループが発表した(日和佳政ほか 2010,全国ホタル研究会誌 40: 27-32)。

 

第43回全国ホタル研究会全国大会(2010年,長野県志賀高原)の筆者発表のデータ


辰野町の移入ゲンジボタル養殖に関しては,以下のような問題点が挙げられる。
  1. 2010年時点で,国内最大の移入ゲンジボタル養殖地であることが判明している。
  2. 松尾峡下流への移入ゲンジボタルの拡散が確認されているが,なお増殖を図っている。
  3. 辰野町の下流地域には多くの自然のゲンジボタル生息地がある。
  4. 町役場が公共事業としてやっている。
これらの点を考慮すると,辰野町松尾峡は,国内で最も大きな問題を抱えた移入ゲンジボタル養殖地であると言える。

私や草桶氏は,移入ホタル問題に関して、批判的なことばかり言っているだけでは何の進展もないと考えている。それで,私自身として,どのような対策が可能かという提言を辰野町役場におこなってきた。前述のように,移入の事実やその影響については,一部マスコミに報じられたが,提言については全く報じられていないため,以下に概要を記す。

2.提言

(1) 移入ゲンジボタルが、移入地である松尾峡から、どの程度拡散しているか調べ,定期的に記録に残す。

これは辰野町に限らず、またホタルに限らず、生態系の変化を歴史に残すという意味で重要なことである。
このような生態調査は,ゲンジボタル保護や利用の現状(祭も含めて)を変えるものではないので,実施しようと思えばできるはずである。

(2) 個体数を増やさない。

最近の松尾峡におけるゲンジボタルの延べ発生数は年10万匹くらいだが、これを3倍に増やす計画がある。しかし、増やせば増やすほど、他地域に移入ゲンジボタルが拡散する速さも数も増すものと考えられる。

辰野町内では既に,松尾峡下流地域に移入ゲンジボタルが拡散していることが判明している(日和佳政・草桶秀夫,未公表DNA資料)。

また,辰野町は天竜川最上流部に近く,下流地域には多くの自然のゲンジボタル生息地がある(三石暉弥 1990,ゲンジボタル.信濃毎日新聞社)。それゆえ,松尾峡における大量の移入ゲンジボタル養殖は,将来これら生息地に大きな被害を及ぼす恐れがある。

したがって、最低限でも今より増やさない、さらに、出来るだけ個体数を減らし、どの程度まで減らしても観光に影響しないかアセスメントを行う。

(3) 移入ゲンジボタルを最終的にどうするか検討する。

2008年7月28日の読売新聞夕刊ネイチャー面(13面)には,移入ゲンジボタルが問題となっている(あるいは,なっていた)地域として,辰野とともに,八王子の創価大学蛍桜保存会のホタルが取り上げられた。そして,蛍桜保存会では,移入ゲンジボタルを付近の在来ゲンジボタルに完全に取り替えた(本来の集団に戻した)ことが紹介された。

この方法は,まさに「昔見たホタルの復活」という利点があるものの,当然のことながら,何年かはホタルがほとんど出現しない状態が続く。この様子は,この読売新聞記事に詳しく載っているので,読んで頂きたい。

蛍桜保存会の取り組みは稀有な例だが,「移入してしまったホタルをどうするか」という事例まで追いかけたのは,少なくとも私の知る限り,この読売の記事しかない。他の例をご存知の方は,是非私に連絡して下さい。

松尾峡の場合,上述のように,延べ10万匹という大量のゲンジボタルが毎年発生し,それが観光資源ともなっている。そのため,蛍桜保存会のような取り組みは,コストの面からも,観光の面からも,不利益が多いと考えられる。したがって,松尾峡のゲンジボタルをこのまま残し,それを活用しつつ,周辺の在来ゲンジボタルに対する影響をどう抑えていくかが重要となる。

例えば,町全体のゲンジボタルを一括して保護するのではなく,移入ゲンジボタルと在来ゲンジボタルを区別して保護し,両者の生息地の間には,あえて保護しない一種の緩衝地帯を設ける。このようにして別々に保護された移入と在来のゲンジボタル集団は,観光客に比較して観賞してもらうこともできる。

以上の提言に関しては,草桶氏もほぼ同意見である。

3.提言に対する辰野町の反応

1の記録に残す点については,辰野町教育委員会が多少なりとも理解を示してくれた。さらに,3の移入と在来の両集団を観賞してもらうという案については,辰野町の信州豊南短期大学の森本健一教授からも賛同を頂いた。

しかしながら,残念なことに,町のゲンジボタルの保護,活用を実際に担当している産業振興課からは全く同意が得られていない。したがって,以上のような提言は検討課題にもなっていないのが現状である。

その理由のひとつとして,また最大理由として,これまで長期間,町役場が移入の歴史に触れずに,自然のゲンジボタルを保護し増やしてきたかのように宣伝し,観光に活用してきたという事情がある(辰野町観光協会ホームページ参照)。これは辰野町独特な問題と言える。

また,辰野町役場は以下のように考えてきたし,今もそう思っている。
「ゲンジボタル移入は松尾峡だけであり,そこから町内他地域に人為的に移出しなかったから,周辺の在来ゲンジボタルには影響しない」
しかしこれは,ゲンジボタルの移動性や辰野町の自然(地理的位置,水系や水田分布)を考えると明らかな誤解であり,長い目で見ると周辺の在来ゲンジボタルに影響すると考えるべきだった。実際,移入ゲンジボタルが下流地域へ広がっていることは上述の通りである。

4.生物多様性基本法から見た辰野町の対応

1993年に,生物の多様性を包括的に保全し,生物資源の持続可能な利用を行うための国際的な取り決めとして,生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)が発効された。わが国も同年には本条約を締結しており,それを受けて,2008年6月6日には生物多様性基本法も公布施行された。

同法では,基本原則として
(第三条 3) 生物多様性を保全する予防的な取組を行い,事業等の着手後においても生物多様性の状況を監視し,その監視結果に科学的な評価を加え,これを反映させなければならない(筆者要約)。
地方公共団体の責務として,
(第五条) 地方公共団体は、基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
国の施策として,
(第二十四条) 国は、学校や社会における生物多様性に関する教育の推進、専門的人材の育成、広報活動の充実などにより,国民の生物多様性についての理解を深めるよう必要な措置を講ずる(筆者要約)。
地方公共団体の施策として,
(第二十七条)
国の施策に準じた施策の推進を図る(筆者要約)。
と記してある。

辰野町では,役場が移入ゲンジボタルを大量飼育しているにも関わらず,それが在来ゲンジボタルに与える影響の評価もせず,対策も取らず,生物多様性基本法に沿った生物多様性保全の責務を果たしていないのである。

この点に関連して,長野県大町市の牛越徹(うしこし・とおる)市長から,以下のようなメールを頂いた(2010年1月18日)。
「辰野町では,ホタル養殖に行政が関与するのであれば,在来種保護は一層重要。解決に時間がかかっても勇気を持って方向を転換すべきだ。」(内容は筆者要約)
私も牛越氏に全く同感である。

移入と在来のゲンジボタル集団を区別するための調査,およびそれらの保護や利用には,地域住民の協力が欠かせない。また,そのためには,在来種保護の重要性を地域住民にPRすることも必要である。これは,黒田大三郎氏(環境省自然環境局参与)が,2010年の第43回全国ホタル研究会全国大会の講演で強調したことでもある。

いずれにせよ,町役場は情報をオープンにし,移入の詳しい経緯を公に明らかにするべきである。その上で,辰野のゲンジボタル保護のあり方を,観光客を含め全国の人々から募ることも考えられる。これは,町にとって決して不利益にならず,むしろ種の保存という現代的な生物の課題に取り組む町であると宣伝できるだろう。

みなさんは,どう思われるだろうか?

ご意見,ご感想,さらには辰野における在来ホタル保護のアイデア,他地域における在来ホタル保護の実例や理念など,お寄せ頂きたい。


2010年7月24日土曜日

生物多様性保全に不熱心な菅 首相 Prime Minister of Japan neglecting biodiversity conservation

環境問題に関する自民党と民主党のマニフェストを比べて見てほしい。

自民党は,地球温暖化防止にも生物多様性保全にも言及している。
http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/pdf/2010_kouyaku.pdf

しかし,民主党は,地球温暖化防止にしか言及していない。
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html

今年10月には,名古屋で,生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催され,日本はホスト国となる。
それなのに,この民主党の無頓着さ。未だに野党ボケしているのか。

菅さん,本当に日本の首相が務まりますか?

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The 10th Conference of the Parties (COP10) to the Convention on Biological Diversity meeting will be held in Nagoya, Japan in October, this year.

However, most Japanese people pay little attention to biodiversity conservation.
Neither does Prime Minister Naoto Kan.

He has referred to the prevention of global warming, but not to biodiversity conservation at all in the manifesto of the Democratic Party of Japan (DPJ)
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html (in Japanese)
http://www.dpj.or.jp/english/ (in English)

What do you think of the Prime Minister of Japan neglecting biodiversity conservation?

In Japan, the Liberal Democratic Party (LDP) seems to be more eager to protect biodiversity than DPJ.

See the policy of LDP:
http://www.jimin.jp/jimin/english/pdf/2009_yakusoku_e.pdf

In this document, the LDP says:
We will continue to protect the beautiful natural features and rich biodiversity of Japan.

As far as I know, such a documented statement is never found regarding the policy of the DPJ.